カナダにて
中川理奈子(京都大学農学部応用生命科学研究科修士2回生)

私は大学の交換留学制度により、一年間カナダ、Department of Immunology, Faculty of Medicine, University of Torontoにて勉強させていただいた。以下に記すことは、私がカナダにて考えたことである。これは自己改悛に基づいており、何人をも批判するつもりはないことを初めに明記しておきたい。

1.大学とは勉学の場である。

何を今さら、と思われる方が多かろう、と思う。しかし、少なくともこの私はその意味が何たるかをあまり理解していなかったらしい。私の勉強態度は、行く前とは一変させられた。その理由を出来る限り説明しようと思う。

まず、そこには日本と北米の大学のシステムの違いがあった。日本の大学は、本人の自主性に重きがおかれ、勉強するも自由、勉強しないも自由、という雰囲気がある。従って、与えられた限りない時間の中で、自分の専門分野のみならずその他の知識も広く取り入れることを楽しむ人は、もちろん沢山いる。しかしその一方、人間は周りに流されやすい側面を持つ。大学入試までのつらい日々を思い、しばらくはもう少し楽に行こう、必要な単位を取って人並みに勉強していこう。しかし、その人並みがくせ者である。大学入試のための勉強量を思い出せば一目瞭然、多くの人は大学に入ってからの方が勉強しておらず、しかもそれが当たり前になってしまっているのである。俄然、勉強しなくなっている自分に、私はもっと早く気がつくべきであった。

一方、北米の大学は入ってからが勝負の分かれ目である。Med school, Law schoolに行くためには死ぬ気でA+を集め続けなければならない。また、行きたいコースに行く為に良い成績が要る場合もある(例えば、Immunology コースに入るためには四回生の初めまでにA-平均が要る)。また、教授の方も安穏とはしていられない。学生などによって厳しく評価され、給料、時には首さえかかってくる時もある。常に大学が緊張状態にある。従って、学生にあまり自主性はない。コース選択の自由はあるが、勉強する内容はほぼ均一である。しかし、授業の内容は濃く、ペースは異様に早い。

さて、この対極とも言えるシステム内を移動した場合はどうなるか。最初の3ヶ月はかなり悲壮であった。もちろんネイティブの英語が難しかったのもある。しかし、問題はそれよりも事前に拾得しておくべき知識の欠除、すなわち私の場合、Immunologyの基本知識全般、授業システムの違い等に負うところが多く、結果的に私は泣きを見ることになった。また、今さらのように、大学院生でありながら、十分に勉強していなかったことに気付かされ、非常に恥をかいたのだった。


2.能動的行動は自己啓発の源。

こちらの大学の行政システムはすべて1:1である。個人で対処していく以外に方法は何もない。例えば、何か必要書類提出期限が有れば、ただそれは事務室の前に掲示して有るだけで誰も注意を喚起してはくれない。全て本人の責任である。逡巡する暇はない。能動的に行動してこそ、得るものがある。

私がこれを強く感じたのは、授業でわからない時が生じた時、それからテスト時間が合わない時など、自分に不都合なことが生じた時であった。授業でわからない所が有れば、それを放っておいてテストでひどい点を取るよりも、アポを取って先生、またはTA に聞いた方が良い、この単純な駆け引きにこれは基づく。もちろん、良く知らない相手に交渉を挑むのは気を使う。しかし、何にせよ、自分にできないことが有ればどんどん相手方に交渉し、譲歩してもらう、たとえそれが上手く行かなくても、そうした途上で学ぶことは非常に多い。相手をより良く知るようになり人脈が広がるだけではなく、相手の対応の仕方の迅速さ、丁寧さ、また、時には実験の為になる参考文献などを得ることが出来る。普段サイエンスの世界(他をあまりよく知らないので、限定させていただく)にいると、モノに語りかけているような時間が多いように思う。こうしたヒトとの相互的接触を経ると、モノ、ヒトとの折衝時間の調和がとれ、同じ分野にいる他の人から受ける感銘、そして研究への原動力を感じることにより、自己啓発をより促すことになる。自分が生きていて、この世界にいてよかった、と感じる瞬間でもあった。

上に記した事は日本でももちろん起こっていることである。ただ、私自身のそうした相互関係への認識が薄かったため、これは非常なインパクトを持って迫ってくることになった。行動する前に諦めてしまう、曖昧にごまかしてしまう、そうした今までの態度を覆すものが、こうした人との折衝の中で生み出されたと思う。

以上、カナダにて感じたことを、徒然なるままに記してみた。その他に細かいことを色々思ったに違いないのだが、急には思い出せない。留学前と比べ、上記を除いて様々な点で変わったのだろうが、自分自身ではあまり認識できない。つらいことも色々あったが、非常に面白い経験をさせていただいたこの機会に何よりも非常に感謝している。この文章が微小ながらも、皆様の経験に何かしら訴えるところが有れば非常に幸いである。