© 2000 Masayasu AOTANI

世紀末の京大

その六:21世紀の落ちこぼれ

新入生を対象に留学生センターの活動についてのinformation sessionsを、合計11回開きました。「名が体を表わさない」留学生センターは、一般学生にはまったく無縁の部局であると誤解されがちだからですが、交換留学や京大の国際化等、彼らにとっても非常に大切な役割を担っているのです。「21世紀の落ちこぼれ」というのは、自分が執筆中の本の「タイトル」でもあり、「Information sessionに来なければ、最初から落ちこぼれるよ」と学生さんの出席を促そうとしたもので、21世紀における留学生センターの使命にも深く拘って来るものです。以下は21世紀の落ちこぼれを作る三要因に纏わる御話です。

コンピューター

コンピューターの使用で、日本はアメリカに大きく水をあけられています。京大の様な大学ですら、学生さんにemailのaccountを与え、学内にcomputer laboratoriesを作ったのはここ二三年の事で、アメリカに七八年の遅れを取っています。小中高等学校をネットに繋げようと意気込んでいる米国とは大きな違いで、日本の大学の新入生は、学部の如何を問わず、コンピューターを使いこなせない人が大多数です。総合情報メディアセンターと協力して、この人達に無理矢理computer accountsを取らせ、computer skillsの大切さを理解させるのが大変な訳です。ただ、彼等は好奇心は旺盛であり、非常に素直にこちらの指導を受け入れてはくれます。

素直と言えば、こんな微笑ましい出来事も有りました。自分のゼミ「国際化大作戦」を取っている農学部のH君。早速emailを送ってみましたが、人生初のemailが届くかどうか気になって、ラボを飛び出すや自転車でキャンパス南端のcomputer laboratoryから時計台脇の留学生センターまで快走、「先生、メールは届きましたか」と駆け込んで来ました。「これでは飛脚と同じだ。Emailの意味が無い」と、二人で大笑いしたのを覚えています。

英語力

英語力 日本のTOEFLの平均スコアがアジア最低だったのは、一昨年ですが、日本でコンピューターやインターネットの使用がなかなか普及しなかったのは英語のせいだと言われるほど、日本人の英語力は貧弱です。京大でも実用英語教育を要求する各学部に対し、語学授業を一手に引き受ける総合人間学部(元の教養です)が「今の講師陣では会話や聞き取りは到底出来ません。その様な学生は各自で研修して下さい」(つまり、「英会話学校に行け」)と撥ね付けたという経緯も有るなど、学生の皆さんの実用英語力の養成には大変苦労しています。

京大と交換留学協定を結んでいるカリフォルニア大学のバークレー校は、学部生にはTOEFL600点を要求するのに大学院生には570点しか要求しません。真相は知りませんが、受験英語を完全に忘れた院生に600点は無い物ねだりだというので、570点で手を打ったという専らの噂です。教官の方も同様にひどく、海外研修旅行で学生さんに何か英語で喋れと迫られ、焦った京大の教授が"I am a book."と思わず擬人法になってしまったという、笑えない話も伝わっています。

20年アメリカに住んだ自分が特に強く感じるのは、日常的な語彙や慣用表現が身に付いていないという事です。例えばこんな話はどうでしょう。

既に業者のemail accountを持っている人が、学校のaccountとの間をどう行き来すれば良いかという質問が良く出るのですが、日本語の「転送」は分かっても、それを英語で「forward」と言うという事を知っている人は非常に希です。「forwardすればいいんですよ。forwardって知っていますか」という問いに、「はい、前でしょう」と受験英語其の物の答えが返って来たのには参りました。

国際感覚

社会学者ではない自分はこれを、国境・文化を越え相手を知り己を知る事、その知識を対話に生かせる事、多国・多文化間の問題解決能力、と単純に考えています。

幸い日本全国から学生さんが集まり、万屋の店先の様だと評される京都大学では、日本人学生の間でも、日常的な異文化交流の場が豊富に有ります。つい最近も北海道の十勝から来た女学生に「京都には梅雨という物が有るそうですね」と言われ、関西人一同思わず顔を見合わせた事が有りました。しかしながら、首都東京の喧騒から隔離された学都京都は日々平穏で、国際性の養成という意味で、刺激に欠けるきらいも否めません。更に京都という土地には、住人と訪問者をはっきりと分ける習慣が有り、これも国際化の大きなネックになっています。兎に角、国際化国際化と声高に叫ばねばならない内は、日本の国際化もまだまだでしょう。立後れている日本の国際化を推進する為には、新入生を始めとする若い力が是非必要です。

福沢諭吉は、「文明論の概略」の中で、「一身にして二世を見る」と言っているそうです。これは封建主義社会と文明開化後の社会を両方経験したという意味ですが、21世紀に生きられる方達は、海外に出る事によって、又the Internetをフルに活用する事によって、「一身にして多世を見る」事が容易に出来ます。チャンスをフルに利用して頂きたいものです。


極最近までは、将来の幹部候補である京大生は「自分は坂本竜馬を尊敬しています」といったコメントで就職戦線を乗り切る事が出来た様ですが、不況下に在る昨今の企業は、その様な抽象的なコメントだけでなく、英語やコンピューター等、即戦力となる知識・技能を期待します。ドイツでは国外経験が無いとまともな就職が出来なくなっているそうですが、日本もいつそうならないとも限りません。

とまあ、そういう事を脅し文句に使いながら、留学・海外研修・国際教育プログラムの宣伝をしています。

脅し文句の効果ですか?三千余名の新入生の内、千人以上が説明会にやって来ました。但し、余興としてアメリカのキャンディーをばら撒いたり、スケボーに乗ってみせたりしたからではないという保証は有りません。


御願い:読者の皆さん、感想等が有りましたら、emailで以下に御送りください。毎月一名以上の方にTシャツ等を差し上げます。aotani@cal.berkeley.edu 又は aotani@aoitani.net
ホームページアドレス http://aoitani.net/aotani-Kyoto.html