青谷ホーム

 

1節:英語はなぜ強いか

 

数字で見る英語の広がり

この節で挙げるデータは時々刻々と変わって行きますので、参考にして頂くのは大いにけっこうですが、正確な数字が必要な場合には各自で再調査して頂くよう、よろしくお願いします。

 

英語を第一言語とする人は世界に4億人程度しかいません。英語を第二言語(外国語ではありません。第二言語です。)とする人も約4億人です。これだけだと中国やインドの人口にも及びません。しかし、英語の本当の強さはそれを母語や準母語としない英語話者の多さです。なにしろ、英語を外国語として使える人が8億人もおり、母語・順母語としての英語使用者の数に匹敵するのですから。これは英語人口が15億以上いる事を示唆しますので、世界で4人に1人が英語を話すことになります。最後に、実は人口的にはアジアが最大の英語使用圏であるという事を付け加えておきます。

 

英語の地位を更に高めているのは、貿易取引や国際会議における絶対的公用語としての使用ですが、国際的な舞台は言うに及ばず、国内的にも英語を公に使用している国が多々あります。英語は60以上の国で公用語なのです。

 

アメリカの「軍隊と経済と科学技術と文化は20世紀の世界を征服した」と言われますが、英語の勢力拡大がアメリカの勢力拡大と強く結び付いている事は間違いありません。すなわち、軍事用語、経済用語、科学用語、流行語などの分野で英語が大きく幅をきかせるようになって来たのです。今や世界のGDP4割以上が英語を話す国によると言われ、30億とも言われるWeb site7割以上が英語であり、ネット使用者の3割は英語の使用者という時代ですので、英語の隆盛もうなずけます。社会の変化に連れて新語もどんどん生み出されているのですが、新語が最も現れやすいのが科学技術の分野であり、全体の約6割を占めると言われるそれらの新語のほとんどが英語です。

 

以上数字で見る限り、英語の強さは明らかですが、それではその強さの理由をもっと見てみましょう。

 

英語はなぜ強いか

まず歴史的な要因として、ここ二世紀にわたる英語支配があります。ヨーロッパでは色々な国や民族が交替で覇権を握っていた為に、フランス語にせよ、ドイツ語にせよ、スペイン語にせよ、一つの言語の天下が長く続くことはありませんでした。ところが、この傾向が最近になって破られたのです。19世紀はイギリスが7つの海を支配した世紀であったので、当然英語が世界に広まりましたが、その後20世紀に力をつけたのがたまたま同じ英語国のアメリカであったので、支配者は代わっても英語の支配は終わるどころか益々強化されたのです。

 

この英語とアメリカの勢いは19世紀の最後には既に明らかであったらしく、ドイツの鉄血宰相ビスマルクは1898年に「20世紀を決める最大の要素は英語だ。北米人が英語を話すからだ」と明言しています。それから約100年も遅れて英語の大切さをようやく認識し始めた日本とはえらい違いです。

 

二番目は大衆への受けです。肩の凝らないカジュアルなアメリカの社会と文化は、若者を中心に現代人の嗜好に完璧にマッチしました。こうして上流階級の共通語として君臨したフランス語が、大衆のことばとしての英語に取って代わられたのです。しかもMcDonald’s(マクドナルドは実はマクドナルヅで、マクドナルドさんのお店という意味です。)をはじめとする米国流の食習慣や、ハリウッド映画やディズニーランドのような米国産のエンターテインメントが世界に広まるとともに、大衆文化の面でもアメリカがリーダーシップを取るようになり、大衆の国際語としての英語の地位が確立されて行ったのです。

 

余談になりますが、エンターテインメントの世界への英語の進出は、半世紀以上前にすでに顕著であり、今や世界的指揮者となった小沢征爾さんは、若き日のヨーロッパ旅行でアメリカのジャズの人気の高さが印象的だった、と手記に記しておられます。

 

このように大衆の言語となる事によって、英語は数多くのまた多様な人々に使われるようになりました。20世紀を通じてゆっくりと進行し続けたグローバリゼーションという追い風もあり、英語を母語としない人々の間に英語が浸透して行ったのです。すでに述べましたが、最大の英語使用圏はアジアであり、今や英語はアメリカやイギリスの専売特許ではありません。世界の共有財産なのです。

 

そんな英語について、特徴的な事が二つ有ります。一つはアメリカが征服者として英語を押し付けたわけではなく、他国が進んで英語を取り入れたという点で、これは歴史的に見て典型的な「言語帝国主義」とは大きく趣を異にします。もう一つは、英語が特に若者にサポートされている言語であるという事で、これが英語は将来にわたっても力を持ち続けると考えられる理由です。

 

英語はどう強いか

日本だけは完全な例外ですが、今や英語圏の人たちもそうでない人たちも、「人間は英語を話すものである」と考えるようになっています。それもただ単に旅行に行っても困らないというような低次元の話ではなく、外交交渉や学会でのディスカッションなどの高度な使用にも堪えうるような英語力を備えた人が増えてきているのです。

 

企業活動も英語が基本になって来ました。多国籍企業でなくとも、グローバリゼーション時代に海外との取引無しに繁栄できる企業は少ないので、英語力は採用や昇進にも影響します。日本でもかつては企業文化になじまないという理由で敬遠されがちだった帰国子女を、進んで採用する会社が増加の一途をたどっているのは、英語の力のひとつの表われです。就職や昇進に必要なので、人々のmotivationも高く、世界中で英語学習者の数が急速に増えているようです。誇り高きフランスの企業もこの例外ではなく、EUのおかげで殆どが超多国籍企業になったために、社内言語として英語を採用する所が出てきているそうです。日産のカルロス・ゴーンさんは、フランスのRenaultが経営母体であるにも拘らず役員会議を英語にしましたが、一昔前ならフランス語でやると言って譲らなかったかも知れません。世界の言語的勢力地図はだいぶ変って来ました。

 

日本国内でも英語は猛威をふるい続けています。日産はトップが非日本人になったので仕方が無いとしても、純正日本企業でも英語力を公に重んじる傾向が出て来ました。たとえば日立製作所は役職ごとにTOEICの一定の点数を義務づけ、採用時は500点、課長昇格は原則650点、また2002年度からは、役員や社内カンパニーの社長には800点を課したそうです。全社員を対象とするのは日本企業ではまれな事ですが、これからはこういう事もだんだん異例ではなくなって行くでしょう。TOEIC800点は、全受験者の10%しか取れないそうですから、これはかなり意欲的な取り組みです。

 

このように世界中で「やらざるを得ない状況」が生じており、アメリカ政府が何もしなくても、諸人がこぞって英語力を付けようとがんばっています。状況による強制ではあっても他国や他民族による強制ではなく、若者に支持されているためにこの先何十年にもわたって天下が続きそうであるというのが、英語の最大の強みでしょう。好むと好まざるとにかかわらず、教育においてもビジネスにおいても英語だけを特別扱いせざるを得ないほど、英語は強大になってしまったのです。「英語ができれば尚良い」という時代は終わりました。今や「まず英語ができなければ話にならない」のです。